2024年から建設業界にも働き方改革関連法が施行され、時間外労働の上限規制が適用されることになります。これをきっかけに会社として「働き方改革」の推進を検討。「まずは現場の残業、管理工数を削減できるように業務を見直しました」と話すのは工事第四部長の秋山氏。建設工事の際に提出が義務付けられている「施工体制台帳」の作成やチェック業務は、それまで各現場で行っており、担当者の負担となっていました。この業務を建設業向けクラウドサイトを活用して東京本店に集約しました。現場の負担は軽減されたのですが、クラウドサイト上で100を超える現場の一つひとつのページを開き、さらに現場に関わる企業ごとに添付書類の有無、中身までを確認するのは大変な手間と時間がかかり、今度は事務担当者の負担が大きくなりました。「チェック業務などにはRPAが使えるのではないかと以前から考えていました。本部で使っていたWinActorが使いやすいと紹介され、とにかくやってみようということでスタートしました」と秋山氏の主導でWinActorによる自動化が進められました。
施工体制台帳は安全管理のために、建設工事に関わるすべての建設業者の情報をまとめた書類で、国土交通省が定めた様式で作成します。現場ごとに工事の名称や許認可番号、内容、施工に参加する企業の社名や連絡先、施工スタッフ名簿、保険の加入状況などを記載。元請企業から下請企業までが、それぞれにクラウドサイトに登録し、各企業が作成した施工体制台帳と必要書類、業者間で交わした注文書や請書などを添付書類としてサイト上にアップします。工事が始まるまでに、各企業の施工体制台帳を確認し、記入漏れや書類の不備がないか、整合性がきちんとあるかなどをチェック。未提出や不備などがあれば元請企業が下請企業に対し、注意喚起の連絡を行います。「企業に連絡した修正が直っているか、直るまで何度もクラウドサイトにアクセスして確認しなくてはならないのが大変で、企業の数も多いのでチェックした履歴を残せる管理表が作れたらいいなと思っていました。もしチェック漏れがあった場合は法令違反となるため、手作業での確認業務には不安もありました」と工事部工事課で事務を担当する佐藤氏は導入前の問題点を振り返ります。
シナリオ作成は販売パートナー企業に依頼。「依頼時にはRPAで何ができるのか、どういうシナリオを作ればよいのかもわかりませんでした。クラウドサイトの動作の手順をスクリーンショットの画像資料にして、こんな管理表にしたいというサンプルを作り、それを元に作成をお願いしました。導入決定から約2か月半でシナリオを作り上げて運用を開始しましたが、実は当初想定していた機能のうちの6割程度でのスタートでした。チェック項目が多くシナリオも複雑なため、スタート直後は不具合もありましたが、運用しながら改修や機能追加などをくり返し、3年間かけて試行錯誤しながらより効率的に活用できるようになりました」と秋山氏。シナリオ修正を担当する工務技術部工務技術課担当課長の木村氏は「はじめはマニュアルを読んでもなかなか理解できず、修正できそうにないと思っていましたが、実際に自分でさわって、動かしているうちにだんだんとわかってきました」と言います。疑問点は販売パートナー企業の担当者にその都度、問い合わせて説明を受けたり、来社して一緒に修正をしてもらったりしたこともありました。途中、クライドサイトの大幅なリニューアルがあったのですが、それも販売パートナー企業の協力を得て、新しいサイトの仕様にも問題なく対応できたそうです。
シナリオ作成の準備段階で、それまでの業務内容を見直し整理しました。各現場で業務をしていた時は、担当者の認識によりばらつきがありましたが、業務の見直しと整理によって社内ルールが統一化されたことも導入効果のひとつです。その後、東京本店での運用が軌道に乗り、全国の支店にも活用を拡大することに。「支店ごとにも認識の相違や独自のルールなどがありました。ルールを統一しましょうというところから話を始めて、業務の中で重視するポイントや優先順位などをヒアリングしたり、業法に詳しい方にアドバイスをいただいたりもしました。RPAの基本となるルールを話し合い、各支店での運用に向けてさらに改修をしました」と佐藤氏。現在、東京本店を含む9支店でWinActorを運用しています。安全管理に関わる人員の見直し(50現場の対応で1名程度の工数削減)、チェック機能の向上による法令違反の防止、作業員の安全管理が徹底されるなど、数々の導入効果が広がっています。「各支店で運用する中で、今後もいろんな要望も出てくるでしょう。常に新しいルールに対応して、社内でシナリオ修正できるのもWinActorの使いやすさだと思います」と木村氏は言います。
WinActorで自動化した内容は、クラウドサイトの現場単位の施工体制台帳のダウンロード、管理しやすいフォーマットへの変換、登録不備の自動チェック、保険加入、健康診断受診状況チェックなど。迅速で確実な安全管理の徹底に繋がっています。さらに、細かな社内ルールに基づき管理表をチェックし、作業の記録を常に更新できるようにしました。ファーストチェックの業者・指摘回数の多い指摘等を着色し、表を更新する際に前回までの指摘事項を自動転記することにより、見るべき場所がすぐにわかるので、管理表を辿って探すという手間も省けています。また管理表に指摘したい内容をまとめておけば、自動的にサイト上で業者へ是正内容の通知、また社内担当者へもメール通知が送信されるという機能も設定。以前は2~3人で手分けしていた作業が、夕方に起動しておけば翌朝には完了できるようになり、作業時間は大幅に軽減されました。「実際にRPAが動いている画面を見て、普段手作業でやっていることがこんなにスピーディーに、正確に行われるのだと驚きました。煩雑で手間のかかる業務というイメージで、チェック漏れの不安などもあったので、自動化によって気持ちの面での負担も軽減されました」と佐藤氏は導入の効果を実感しているとのこと。登録の不備や添付書類の有無などRPAで判断できることはRPAに任せ、添付書類の内容や押印などは人間の目で確認することでチェック業務の精度を向上させています。
「私は事務担当で現場に出たこともありませんが、現場ではたくさんの業務があるうえに、安全管理業務までしていた大変さを自分がやってみてわかりました。安全書類以外にも、こちらでできることは引き受けていきたいと思っていますし、RPAが活用できるとさらに幅が広がるのではないかと考えています」と佐藤氏は今後の展望を語ります。
一方、秋山氏は「建築業界には、これまで積み重ねてきた手法や慣例、それに基づく考え方が根強く残っています。それを一旦リセットして、別の視点で見てみることで、様々なアイデアが生まれてくると思います。例えば、必要なポイントを撮影し、写真台帳を整理(膨大な時間と知識が必要な業務です。また膨大な量の写真より必要な写真を見つけるにも手間がかかる)していますが、360度カメラとiPadを持って撮影したい場所を歩くだけで、写真と図面がリンクするCloudを利用することにより大幅な業務削減が可能となり、決められたルートを歩くだけなので技能が無くてもできる業務となります。また写真と図面がリンクするので見たい箇所の検索が容易になります。このサービスを通して、PCの処理能力、通信の高速化により膨大なデータを取得し処理することが可能になったが、人間の発想が進化できていないと感じました。こうした真逆ともいえるような新しい手法や考え方を柔軟に取り入れることが大切。視点が変われば、発想も変わり建設業界でもRPAを活用して効率化できることがさらに増えるのではないでしょうか」と言います。働き方改革をこれからも推進していくためにも、さらなる利便化、RPA運用のための人材育成に向けて、社内セミナー、研修などの学びの機会の設定も検討しておられるそうです。
会社名:東洋熱工業株式会社 東京本店
所在地:東京都中央区京橋二丁目5番12号
創業:1937年8月
事業概要:空気調和設備、給排水衛生設備(合わせて空調衛生設備)の設計・施工・アフターメンテナンスを行う老舗総合エンジニアリング企業です。新築工事、リニューアル工事、省エネルギーの提案等、幅広いシーンでお客様のニーズにお応えして参ります。
URL:https://www.tonets.co.jp/
工事部
工事第四部長
秋山龍生氏
工務技術部 工務技術課
担当課長
木村和広氏
工事部 工事課
主事
佐藤ことみ氏
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