マイクロソフト社より、Windows10におけるInternet Explorer11デスクトップアプリケーション(以下、IE11) のサポートを2022年6月15日で終了し、後継はMicrosoft Edge(以下 Edge) となること、IEベースのWebサイトはEdgeのIEモード利用でアクセス可能ということが発表されました。「派遣事業運営の根幹となる業務を事務センター等に集約したうえで、基幹システムを操作する業務オペレーションにRPAが組み込まれており、事業の基盤となっています。もしブラウザ移行の対応が間に合わない場合、派遣スタッフの雇用・給与にダイレクトに影響を与えることが懸念されます。弊社の事業の根幹を揺るがしかねないリスクになると強烈な危機感をもちました」と話すのは、経営企画本部 業務改革推進部 RPA推進室 兼 業務改革推進室 マネージャーの矢頭氏。2018年にWinActorを導入し、現在では業務センター、間接部門、企画部門を中心に25部門、派遣社員の契約手続き、クライアント企業への請求計算、派遣スタッフの雇用管理・給与計算・社会保険手続き、派遣法対応手続き、スタッフ登録関連業務など約300業務を担っており、年間30万時間をWinActorで創出しています。基幹システムはIEブラウザで操作するため、基幹システムのブラウザ移行とそれを操作するRPAの改修が間に合わないと、最悪の場合、派遣スタッフの給与など重要な部分のオペレーションが機能しなくなることも想定し、IE11サポート終了までに、WinActorのすべてのシナリオをIE11からEdgeのIEモードへ移行する改修プロジェクトが立ち上げられました。
マイクロソフト社からのIE11サポート終了発表の翌日にRPA推進部門とIT部門で協議を開始。「何をどう準備していけばよいのか全くわからず、スケジュールの見通しも立てられない。真っ暗闇のトンネルの真ん中で出口が見えないような状態でのスタートでした」と矢頭氏は当時を振り返ります。最初に着手したのは、全社300業務のビジネスインパクトを考慮し、RPAの優先順位を3段階に分けて検討することと、RPAごとの置換ノード数の棚卸しでした。一次販売店の協力もあり、2022年5月までのスケジュール、RPAへの影響を最大限考慮した方針を決定しました。Ver.7.3.0を使い、EdgeのIEモードに置き換え可能な範囲、移行後に問題なく作動するか、手動の場合の手順などを検証。また検証での工数をもとに、改修担当者の割り振りと作業スケジュールをプランニングしました。WinActorのシナリオはRPA推進部門で開発し運用部署へ納品しているもの、運用部署で開発しているものがあり、運用部署で開発したシナリオはその部署で改修することになります。各部署の担当者がスムーズに作業できるように「改修マニュアル」を作成しました。「なぜブラウザの移行が必要なのか」「RPAにどのような影響があるのか」という基本的な考え方から、起きそうな問題点、チェックポイント、ライブラリ修正の方法、支援ツールの使い方、手動の場合のプロセス、ブラウザ変更の環境などを詳しく記載。マニュアルを参照し、パソコンの画面を見ながら修正できるようにしています。うまく改修できない、わからないことは問い合わせをすればRPA推進部門で対応しています。
「WinActorを導入して4年、会社の中でRPAが浸透して影響力を持つようになりました。RPAのスムーズな稼働のため、常にIT部門とRPA部門、運用部署が情報連携・協業する土壌ができていたこと、RPA推進部門からの要望を受け入れてもらえる関係性が構築されていたことも功を奏しました。シナリオをEdgeのIEモード対応に改修する方針やスケジュールを示しながら、IT部門と基幹システムの移行方針やスケジュールも調整できました」と矢頭氏。日頃から、各部署で行うWinActorの開発や保守・改修の情報を共有したり、RPA推進部門での失敗や苦労した点などを現場にも展開したりして、社内でノウハウを蓄積してきました。自分たちで育成しながら、積み重ね、拡大してきたという実感、そして改修が間に合わなかった場合の危機感もあり、今回のプロジェクトではRPAの運用に影響を出さないことが最優先事項だという共通認識のもと、各部署間の連携がしっかりと取れています。さらに、移行ツール“ライブラリチェッカー”の活用で、既存のIE操作シナリオを自動的にEdgeのIEモードへ置き換えられることも改修担当者の負担を軽減し、作業効率を大幅に高めています。すべて手動で置換・修正した場合のシミュレーションもしていましたが、5~6倍の時間がかかっていたと推測されます。「ここまで順調に進めてこられた一番の要因は、RPA部門のメンバーや他部署の協力を得て、試行錯誤を繰り返してきたことでしょう。あらゆる状況を想定して、無駄だと思うようなこともみんな一生懸命に取り組んでくれました。その積み重ねがあり、堅実に事前の準備ができました」と矢頭氏は言います。今の進捗状況で行けば2022年5月までにはすべてのシナリオ改修が完了できる見込みです。
スタッフの給与計算や社会保険の手続きなどの重要な業務から、経費処理など営業の現場で日々面倒だと感じている細かな業務までRPA化が広がっている同社「一度、自動化した業務を元のように人の手ですることには戻れないため、今後さらに導入業務もシナリオ数も増加すると思われます。また、変化・進化を続ける事業において、新しい業務プロセスが生まれたり、変革が進んだりする中では、何を効率化・自動化するのに適切なのかという検討も引き続き重要な課題になってきます。業務内容が複雑で開発に手間がかかるような案件もあり、業務プロセスをまるごと変えるという別のアプローチも必要になってきています。またこれからは、RPAにAIを組み合わせることで、業務改革も進化させていきたいと考えています」と矢頭氏。もはや必要不可欠となったRPAの環境を維持しつつ、新しい活用スタイルなども期待されています。
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