1951年創業の株式会社ノーリツは給湯機器、温水暖房機器、厨房機器を中心とする住宅設備機器の製造販売を行う企業です。「新しい幸せを、わかすこと。」をミッションに掲げ、国内事業で培ってきたガス給湯器のノウハウを元に海外事業も広く展開してきました。近年の働き方改革に伴う法制度変更や労働人口の減少により、これまでよりも少ない人数で効率的に業務を行う必要が出てきたことから同社では、製造ラインや品質管理、お客様対応の管理など、“スマートファクトリー化” も含めた工場や全社業務の業務自働化に取り組んでいます。そうした中で、社内のシステムを一元的に管理するIT推進部を中心に、より少ない人数で効率的に業務を行うための施策としてRPAの導入検討を進めることとなりました。
プロダクツ本部 品質保証推進本部 第1品質保証部企画管理グループ
雑賀 律子氏
「せっかく導入するからには長期的に運用できる仕組みとして定着させたかった。」と語るのは、企画管理本部 IT推進部でサブリーダーを務める橋本 秀昭氏。初めてのRPA導入にあたり、全社に影響する比較的大きな業務の自動化はIT推進部が開発を担当しつつも、各組織で完結するような小規模な自動化は各部署の担当者自身に任せる(市民開発)というスタンスを取ることとなりました。そのためにIT推進部では、独自のRPA運用ガイドラインや業務フローを可視化するドキュメント類の雛形を準備すると共に、各部署が開発するシナリオファイルをバージョン管理ソフトウェアで厳密に管理できるようにするなど、RPAを社内で末永く使えるツールにするための環境を整備することに腐心したことが伺えます。
RPAの選定にあたっては複数の製品を比較検討した結果、スモールスタートから全社展開までの拡張がスムーズに行えること、必要に応じて管理機能が利用可能であること、RPA初心者でも開発にチャレンジできるような取りくみやすさなどを考慮し、「現場フレンドリー」が特長のWinActorを選定しました。橋本氏によると「IT部門による開発だけでなく現場での開発(市民開発)を見据えて選定したことが一番大きな要因です。弊社全体のITリテラシーを鑑みた結果、海外製品での開発はハードルが高いと判断しました。」とのことで、国産製品であるということもポイントでした。
WinActor によるロボット開発は、IT推進部のサポートのもとで製造部と品質保証部を初めとした6部署でスタートしました。
製造部では、毎日手作業で実施していた生産実績 及び 品質実績の集計業務を自動化するロボットを開発し、定時後にスケジュール実行させることで時間外労働の削減ができ、作業ミスもなくなりました。それを皮切りに20体のロボットを開発に着手しましたが、部内にVisual Basicの経験者が居たことや毎週2回のOJT研修を通じて開発メンバーのスキルアップを継続してきたことがメンバーの早期育成に繋がりました。
また、同社の製造ラインでは、業務における ”3M”(面倒なこと、間違えられない、マンネリ化)を避けるというメッセージが浸透しており、RPAを推進することへの意識が高かったことも WinActor の習熟に繋がったと言えます。製造部では116時間/年を超える工数削減を達成すると共に社員の時間外労働を削減することができました。
一方、品質保証部ではITに詳しいメンバーが居ない状況でスタートしたため、試行錯誤を繰り返しながらゼロからRPAを習得することとなりましたが、サポートを担当するIT推進部が難易度の高い処理については事前に雛形を作成し、共有することで現場ではそれらを組み合わせることで簡単にシナリオ作成ができるようになっていたそうです。その結果、修理業務における損金分析を行うロボットや週毎の修理状況をBIツールで分析するためのデータ抽出を行うロボットなどを部内で開発し、2,190時間/年の作業工数を削減するなど大きな成果を挙げました。RPA導入前は各システムを連携させるためにシステムの大幅改修も検討していましたが、WinActor で自動化することにより圧倒的に少ないコストで効率化することができました。
各部署で導入効果が出てくると同時に全社導入に向けた課題も見えて来るようになりました。全社で稼働しているロボットが80体を超えており、いつ誰がどのロボットを実行したのかなどの運用状況を内部統制の観点からもしっかりと管理する必要が生じてきました。前述の橋本氏は管理機能の採用理由について次のように語ります。「弊社ではセキュリティやリスク管理上の観点から社員がシステムを操作する際は必ず履歴を管理するというルールがあり、WinActor の導入当初から管理機能の必要性を考えていました。管理機能導入前はロボットを動かす前に各担当者がグループウェアで WinActor を予約してからシナリオを実行させていましたが、ロボットが増えて人力でのスケジュール登録作業が限界を迎え、いよいよRPA専用の管理ツールが不可欠であると判断しました。」
WinActorには専用の管理機能としてWinActor Manager on Cloud(WMC)というクラウド型のサービスが提供されており、これが同社の運用にピタリとはまることになりました。橋本氏が特に気に入っているのは、ロボットの再実行機能とメール通知機能だと話します。RPAのロボットは仕様通りに完成していても、ネットワークなどの環境要因により動作が途中で停止してしまうことがありますが、WMCが自動的に再実行してくれるので運用上の負担が大きく軽減されました。また、実行が完了するとメールで管理者に通知が届くことも履歴管理の上では欠かせない機能でした。
同社では導入3年目ぐらいから「より効果の高いロボットへIT開発のリソースをシフトさせることを考えていた」といいます。当初は数を揃えることに注力してロボットを増やしてきましたが、開発工数に見合うだけの導入効果が出せないロボットも生まれたため、より効果的な開発を目指しリソースのかけ方や方針を見直したと言います。そのような中、2020年に発生した新型コロナウイルスの影響により、社員の出社制限が掛かるようになると再びRPAが社内で脚光を浴びることになり、リモート環境から開発~運用まで完結できるWinActor + WMC は同社の業務遂行と切り離せない重要なインフラとなりました。
運用を担当するIT推進部としては、WinActorの最新バージョンであるVer.7への移行を進めつつあり、初心者向けの開発機能である WinActor Storyboard の活用を見据えていると言います。来年に控えているInternet Explorer 11のサポート終了への対応などこれまでに開発したロボットを修正する必要もあり、WinActor+WMCによる ”リモートでも使えるRPA” は、ますます手放せない仕組みになったと言えそうです。
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